Z世代の要人材の特徴と発掘方法 自律的で優秀な人材を早期退職させないための必須知識
「Z世代の扱い方・マネジメントをどうしたらよいのか分からない」「我々の世代の考え方と異なり、従来のマネジメントのやり方が効かなくなってきたように感じる」——これらはいま、多くの管理職やリーダーの方々の頭を悩ませている問題です。Z世代とVUCA、さらにはコロナ禍。世代と環境の両方のダイナミックな変化を受けて、企業の新人・若手育成はいっそう難しくなっています。今回は、そうした中でZ世代の「要(かなめ)人材」をどう発掘するかについて解説します。
目次
Z世代の大手企業の止まらない早期離職
いま、弊社に寄せられる課題が大きく変化しています。昨年のご相談で最も多かった悩みは、従業員1000名以上の大企業における早期離職率の高止まり、とくにZ世代を中心とした若手優秀人材の早期離職が止まらないというものでした。
各社、とくに大企業でのZ世代における育成の悩みは深刻だと感じましたが、その背景・真相には何があるのでしょうか。さまざまな観点から考察していきたいのですが、まずはZ世代における離職状況についてデータを確認していきましょう。
リクルートは「企業の人材マネジメントに関する調査2023」の結果として、次のように述べています[1]。
Z世代(26歳以下)の転職は、コロナ禍の影響による一時的な落ち込みを除くと、右肩上がりで増えています。2020年度まで全体との差分は一定の範囲内にとどまっていましたが、2020年度以降、全体との差がじわじわと広がりを見せています。今後も若年層の転職は増えていくと見込まれます。
求人市場においても、若年層を対象に、特定の業務経験を積んでいなくても、ポテンシャルを重視して採用する企業が増えています。若者にとっては、早い段階から自分らしいキャリアを選択していけるチャンスが広がっていく一方、企業側は、多様化する選択肢の中で、変容する若者のキャリア観に向き合わなければ、離職につながってしまうリスクが高まっています。
さらに、データとして非常に興味深いのが、厚生労働省が発表した新規学卒者の離職状況です[2]。大企業の早期離職率が右肩上がりで上昇しています。これまで長期的な人材育成の仕組みや、多様なジョブローテーション先とその機会があることなどから、定着率が比較的高かったはずの大企業に変化が起きているのです。
注
[1]: リクルート「Z世代(26歳以下)の就業意識や転職動向」
[2]: 厚生労働省「新規学卒者の離職状況」の「新規学卒者の事業所規模別・産業別離職状況」
社会的自律状態にいるZ世代が急増
なぜいま、このようなことが起きているのでしょうか。それを理解するにはまず、Z世代の特徴・労働価値観を正しく把握することが大事になります。
リクルートマネジメントソリューションズはコラム「Z世代の新人・若手の育て方・生かし方」(公開日:2022年3月18日、更新日:2023年2月13日)において、「理想の職場・上司像」に関する調査における2011年と2021年の結果を比較した結果、明らかな変化があったと述べています。
上司世代にとっては理想的だったと思われる要素(1つの目標の共有・鍛え合い・活気・厳しい指導・引っ張るリーダーシップ・情熱)の選択率が下がり、代わりに「個性の尊重・助け合い・一人ひとりへの丁寧な指導・ほめること・傾聴」を職場や上司に求める若者が増えているのだ。
さらに同コラムでは、新入社員が「仕事をするうえで重視すること」を次のように指摘しています。
外発的動機(承認・金銭・競争)の選択率が低く、内発的動機(貢献・成長・やりがい・仲間)の選択率が高いことが一目瞭然である。
これらから、Z世代は他者の多様性と自身の個性の両方を尊重し、さまざまな価値観を受け入れる姿勢がうかがえます。また、旧世代の「会社のために」という価値観ではなく、「自分自身のために」働くという価値観が主軸となりつつあります。
そしてこの流れこそが、キャリア自律につながります。
弊社は、自律には「社会的自律」「組織内自律」「依存」の3つのレベルがあると考えています。これは、精神面での成長の度合いと捉えることもできます。当然ながら、自律のレベルが高い人材ほど、組織の中で多大な影響力を及ぼし、組織を活性化させるためのキーマンになります。
自律の各レベルにおける人材像は次のとおりです。
依存
人のせい、会社のせい、社会のせいなど今を存在否定している人。
組織内自律
組織内で与えられた環境において自律に行動でき、与えられた環境内における自分の役割を探究・向上させ続けられる人。
社会的自律
たとえ組織内にいても、組織という枠を越えて、社会的視野から自分の立ち位置や在り方を探究・向上させ続けられる人。
ここで見逃せないのが、Z世代にこそ「社会的自律状態にある人材が増えている」という点です。
ここ数年社会的変化のうねりとともに、自分の人生に覚悟を持ち、人生設計をすでに持っているZ世代が急増してきたと筆者は実感しています。それは東日本大震災から始まり、2020年のトヨタ自動車の終身雇用の限界会見、COVID-19の流行など、自分自身のキャリアや社会との関わりを深く考えざるを得ない環境が多かったからだと推察しています。彼ら彼女らは、自分と会社の関わり以上に、自分と社会との関わりをより大事にします。
そして、これからの企業の成長の鍵を握るのは、Z世代であることに間違いありません。
Z世代の要人材を発掘する問いかけ
では、Z世代の社会的自律状態・組織内自律状態に位置している人材=要人材とは、どのような人材なのでしょうか。それは、従来のような「個性を押し殺す管理型マネジメント」ではなく、1人ひとりの個性を伸ばしたり自律性を発揮させたりする「個性発揮型マネジメント」で伸びる人材です。この観点が社内から自律状態にある人材を発掘するうえで大事になります。
次に示すのは、個性を押し殺す管理型マネジメントと個性発揮型マネジメントの比較です。「お客様からのクレームに対応する場合」を例にとっています。
個性を押し殺すマネジメント
・上司 クレーム処理はこのようにしなさい。
・部下 私なりにもっと〇〇のように対応したいと思うのですが……。
・上司 いや、いいから私の言うことにおとなしく従いなさい。
・部下 上司の言うようにやってみたけど、案の定うまくいかなかった……。良いアドバイスもしてくれないし、もうこの人の言うことは話半分に聞いておこう。
個性発揮型マネジメント
・上司 クレーム処理にあたって、何を大切にしたい?
・部下 我々側の落ち度も認めつつも、これまで下請け的な対応をされてきたので、今回を機に、対等なパートナーな立場になれたらよいなと思います。
・上司 了解。そのような関係になれるために、どう動けばよいと思う?
・部下 我々の口からはっきりと、パートナーになるために、いくつかの改善提案もしようと思います。
・上司 了解。では、上司として私のほうからしっかりと謝罪はしておく。その後、担当者として、〇〇さんもしっかりと謝罪しよう。その後に、これまでフロントに関わってきた〇〇の想いをタイミングを見て伝えようか。何かあったら私もサポートするので。
・部下 かしこまりました! ありがとうございます。
この例のように、一方的に命令・指示を出すのではなく、
・何を大切にしたい?
・そのために、何をする?
・(上記の部下の価値観を尊重したうえで)最低限のアドバイス
と、その人の価値観と行動を結ぶ問いかけをするのが、個性発揮型マネジメントです。
実際に「何を大切にしたい?」と問いかけてみると、一生懸命に答える人と、分かりませんと答える人とにはっきり分かれます。一生懸命に答える人は「社会的自律」「組織内自律」の状態にある可能性があり、分かりませんと答える人は「依存」状態のことが多いです。当然ながら、依存状態にあるZ世代に関しては、問いかけをしても難しいし、かつ経験も未熟なため、1つひとつ指示を出す必要があります。
Z世代の育成やマネジメントが苦手だとされる管理職はこのような一見時間がかかる若手人材への問いかけに対して、非常に中途半端な向き合い方をされます。
本来自律状態にある有望な人材であるにも関わらず、マネジメントの仕方によっては、「言うこと聞かない生意気な若手だ」と思われてしまっては非常に機会損失です。それでは、せっかく自律状態にある、優秀な人材であればあるほど、組織(厳密にいえば上司)に見切りをつけて早期に離職してしまうのです。
個性発揮型マネジメントは管理職や人事部の負担を増加させるように見えますが、Z世代以降の人材には、このようなマネジメント方法でなければ通用しなくなるはずです。
昨今、日本の教育も自律を重視する方向に大きく変わりつつあります。近い将来には、「個の自律」が当たり前だと考えるZ世代の次の世代たちも社会に出てくるでしょう。個を尊重せず、自律も求めない会社には、若手社員が定着しなくなる可能性があり、個の尊重は避けられない時代の流れになるかと思います。
Z世代のマネジメントこそが、人間の表も裏も、清らかさも不純なものも、ポジティブもネガティブもあるがままに受け入れ、会社の資本として活かす「人的資本経営」の第一歩であると私は考えます。